【韓ペンオリジナルレポ】 ~『第35回 東京国際映画祭』コンペティション部門 審査委員記者会見~ シム・ウンギョンが本年、初めて審査委員に選出!その思いを語る

2022年10月24日(月)~ 11月2日(水)迄、 日比谷・有楽町・丸の内・銀座を会場として 『第35回 東京国際映画祭』が開催された。今年で35回目を迎えた東京国際映画祭は世界中の優れた作品を世界に向けて発信し、有能なクリエイターを輩出するアジア最大級の映画祭。映画を通して様々なことを伝えて来た。

しかし、人々に活力や悦びを与えて来たエンターテインメントを新型コロナウィルスが突然阻んだ。映画界も多大な影響を受ける中「なんとか人々の不安な気持ちに希望や元気を与えたい」と、必死に作品を制作・提供し続けて来た。2022年に入り、ようやく状況がいい方向に向きはじめ規制も緩和され、完全復活への明るい兆しが見えてきた。

シム・ウンギョン

2022年の映画祭のテーマは「飛躍」

我慢を続けて来た映画界が新たにはばたく時、そして映画を観た人たちが希望を持って前へ進む時。コロナ禍に負けず高い志を持って作られた作品が今年も勢ぞろい。各国の個性溢れる魅力たっぷりの作品は映画ファンに元気を与え、心をときめかせた。

10月25日(火)には 「コンペティション部門 審査委員記者会見」が行われ 審査委員陣が登壇した。本年の審査委員に、子役を経て数々の名作に出演、日本では 映画『新聞記者』で第43回日本アカデミー賞優秀主演女優賞及び最優秀主演女優賞を受賞したことでも知られる韓国の俳優シム・ウンギョン(심 은경)が初めて選出され、この日の会見に臨んだ。

本会見に登壇したのは

審査委員長

ジュリー・テイモア (演劇・オペラ演出家・映画監督)

審査委員

ジョアン・ペドロ・ロドリゲス(映画監督)

マリー・クリスティーヌ・ドゥ・ナヴァセル(元アンスティチュ・フランセ館長)

シム・ウンギョン(俳優)

柳島克己(撮影監督)

の、5名。

左から 柳島克己⇒マリー・クリスティーヌ・ドゥ・ナヴァセル⇒ジュリー・テイモア⇒ジョアン・ペドロ・ロドリゲス⇒シム・ウンギョン
シム・ウンギョン

◆今回の審査員に選出されたことについて

ジュリー・テイモア :私が初めて外国映画に触れたのは15歳の時、パリで観た黒澤明監督の『羅生門』でした。この映画に出会って私の人生は変わりました。黒澤監督がいたから、私は映画監督になろうと思いました。黒澤監督は作品の美しさ、想像力、ストーリー… 全てが達人です。監督はシェークスピア作品も手掛けていますが、人間にとって大切なのは想像力です。今日(こんにち)は、あまりにも全てリアル過ぎて醜い状況がありますが、映画というものはダークな物語も美しい形で伝えることが出来ます。私たちの魂が開かれます。今回、我々が鼓舞されるような、「映画館に行こう!」「劇場に行こう!」と思える作品に出会いたいと思っています。

ジュリー・テイモア

ジョアン・ペドロ・ロドリゲス :こんにちは。私が日本に初めて来たのは1999年です。私の最初の長編作品を手掛ける前に、日本に来たのですが、自分が映画を作るきっかけとなった日本、影響を受けた日本の映画が生まれているこの国に直接来ることが出来て感動的体験や色々な発見をさせていただきましたし、文化に触れることも出来ました。 その時は1ケ月、色々なところを周り日本語が話せないので苦労もありましたが、黒澤監督、溝口監督、小津監督などの作品や場所に触れることが出来て貴重な体験でした。 現在、コロナ禍となってから2年が経過してまた劇場という場所で共に映画を体験出来るようになってきたのは嬉しいことです。今回、私は審査員の他、私の作品がワールド・フォーカス部門で2本上演になります。現代はパンデミックや戦争など色々恐ろしい時代を生きている中、映画そして芸術全てが「希望」をもたらすと思っています。

ジョアン・ペドロ・ロドリゲス

マリー・クリスティーヌ・ドゥ・ナヴァセル :私が初めて日本の作品に触れたのは『東京物語』です。初めて日本に来た時、熱海に行ったのですが、実は大変ガッカリしました。自分が想像していた熱海では無かったんです。あの映画の2人の老人が海を見ながら食事をしている…そんな熱海を求めていたのですが、そうではなかったです(笑) でも日本について多くのことも学べましたし、様々な経験出来ました。フランスではパンデミックによりこの2年ほど劇場が閉鎖され映画館で映画を観ることが出来なくなり、人々はNetflixなどを通して自宅で観る形に大きく変化しましたが、フィルムメーカーたちはそんな中でも撮影を続けていました。なので作品本数は十分にある状況、そんなところが映画の強さです。今回は東欧の参加は少ないかもしれませんが、ウクライナでもちゃんと作品が作られています。素晴らしいことです。大きなスクリーンで各国の新しい作品を拝見出来るのは嬉しいことですね。

マリー・クリスティーヌ・ドゥ・ナヴァセル

シム・ウンギョン :世界各国の素晴らしい映画人の皆様と今日この場にいられることを光栄に思っています。私が初めて日本映画を観た時のことを思い出すのですが、その時のことを考えただけでも今、この場に座っていられるのは感無量です。 私が初めて日本映画を観たのは中学生の時、岩井俊二監督作品『リリイ・シュシュのすべて』ですが、非常に衝撃を受けたことを覚えています。それ以前に観ていた映画とは全く違い、こういった構成の映画も存在するのだということを教えてくれました。私の人生の中でとても大切な作品で、私の感受性を豊かにしてくれた作品です。なのでこの場にいられることは言葉で表せないくらいの気持ちです。私はまだ今ここにいらっしゃるかたたちに比べ 審査員としての素養が足りないかもしれませんが、この機会を逃したくないと思いました。映画が持っているチカラを大勢の皆さんと共に感じたいという思いがあり今回、この東京国際映画祭の審査員を引き受けさせていただくことになりました。

シム・ウンギョン

◆新型コロナの時代における映画の役割・価値についての考え。今回の映画祭のテーマは「飛躍」だがコロナの後、どのように映画界が飛躍していけばいいと考えているか。今後どんな作品を作っていきたいか

ジュリー・テイモア :パフォーミングアーツと映画は、観る人にとって娯楽と癒しがもたらされると思います。私自身『ライオンキング』の舞台を手掛けさせていただきましたが、芸術は癒しをもたらすチカラを持っています。これは私自身にもとても大切なことです。私は『フリーダ』という作品も撮ったのですが、『ライオンキング』でオーストラリアに滞在中、ガンを患いもう先が長くないという女性に出会いました。その女性から『フリーダ』があれだけの痛みや困難を抱えながらとても生き生きとした生き方をしているところに感銘を受け、今の自分が直面している状況への対応を変えることが出来たと言われたんです。芸術は、自分ではなく他の人の物語を生きることにより希望や共感をもたらすと思います。 自分以外の経験をたどることで自分に反映され、自分の生き方を知ることが出来る…。私たちアーティストが担っている部分だと思います。

オリジナリティが大事です。恐れずに独自の物語を放出することが大切です。大作といわれるものにおいて、昔のIPと呼ばれているものと同じようなものが繰り返し産出されています。同じようなものでもどこかオリジナルな視点で恐れずに作らないといけないと思います。『ライオンキング』を手掛けた時、実はディズニーの人たちは舞台化がうまくいくとは思っていませんでしたが、私のアイディアを採用して下さいました。リスキーなことはとても大切です。オリジナル作品性を出すのは大切だし、それに対してお金を出す側も支援をしていかなくてはいけないと思います。そうでないと「飛躍」が出来ないと思います。今まであったものをただ回し続けることになってしまうと思います。

私の今後の作品ですが、4~5本程度お話をいただき今いろいろ考えているところです。自分の中では韓国の古典「白虎(백호=ペクホ)」という舞台の映画化をやりたいと思っています。今はアイデンティティが重要視されている時代なので、文化を共有して共にチカラを合わせて作品を作っていくということが大切です。なので、この「白虎(백호=ペクホ)」をやることをとても楽しみにしています。置き去りにされたお姫様と自然、種族を超えたラブストーリーなのですが、未来について、そして母なる大地・自然について語っている作品でもあります。 動物、自然、サバイバルにどのように対応すべきか、何か出来ることがあるのか…私は芸術家という立場から最後の試みとして、皆さんにどうか目覚めてほしいと思いこの作品を手掛けていきたいと思っています。

ジュリー・テイモア

◆最後に、今回の映画祭にどんな印象を持っていますか? どんなことを期待していますか?

マリー・クリスティーヌ・ドゥ・ナヴァセル :私たちはまだ何も観ておらず今日の午後、1本目を観ることになっています。ただ1つだけ申し上げられるのは、今回の作品の中に英語の作品が1つも無いというところです。これは映画祭としては珍しいのではないかと思います。そんなバラエティに富んだところをとても楽しみにしています。

マリー・クリスティーヌ・ドゥ・ナヴァセル
ジョアン・ペドロ・ロドリゲス
柳島克己(撮影監督)
シム・ウンギョン

text & photo : Chizuru Otsuka

<第35回東京国際映画祭 開催概要>

■開催期間:2022年10月24日(月)~11月2日(水)
■会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区 

■公式サイト:www.tiff-jp.net

<TIFFCOM2022 開催概要>

■開催期間:2022 年 10 月25 日(火)~27 日(木)(※オンライン開催)
■公式サイト:www.tiffcom.jp